大阪地方裁判所 昭和23年(ワ)1462号・昭23年(ワ)1766号 判決
昭和二三年(ワ)第一四六二号事件原告・同年(ワ)第一七六六号事件被告
川畑鉄雄 外一名
昭和二三年(ワ)第一四六二号事件被告・ 同年(ワ)第一七六六号事件原告
鐘ケ淵紡績株式会社
一、主 文
昭和二十三年(ワ)第一四六二号事件原告川畑鉄雄、同藤原榮の請求を棄却する。
昭和二十三年(ワ)第一七六六号事件被告、藤原榮は同事件原告に対し大阪市都島区友淵町百二十三番地鐘ケ淵紡績株式会社内男子寄宿舍第九号室から立ち退き同室を明渡すこと。
昭和二十三年(ワ)第一七六六号事件被告川畑鉄雄は同事件原告に対し前項記載の寄宿舍第五十三号室から立ち退き同室を明渡すこと。
前二項の事件被告川畑鉄雄、同藤原榮は第一項の事件の判決確定したときは昭和二十三年(ワ)第一七六六号事件の原告に対し大阪市都島区友淵町二百五十五番地淀川アパート第十号室から立ち退き同室を明渡すこと。
訴訟費用は全部第二項の事件の被告等の負担とする。
此の判決は昭和二十三年(ワ)第一七六六号事件原告が同事件被告両名に対し夫々金弐千円の担保を供するときは第二、三項に限り仮に執行することができる。
二、請求の趣旨
昭和二十三年(ワ)第一四六二号事件原告(同年(ワ)第一七六六号事件被告、以下原告と略称す)訴訟代理人は、同事件に付同事件被告(同年(ワ)一七六六号事件原告、以下被告と略称する)が原告等に対し昭和二十三年九月六日申渡した解雇は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。
三、事 実
原告川畑は昭和二十三年七月四日被告会社の募集人和田某の勧誘に依り、原告藤原は被告会社の募集人後藤某の勧誘に依り、夫々被告会社に雇入れられたものである。而して右募集人等の勧誘の際原告川畑は募集人に対し、終戦前長崎炭鉱で働いたことや、終戦後農業の傍郷里の西松製材所で日傭人夫に雇われたこと等話したが募集人の都合で職歴の項には農業と記載されたもののようである。又原告藤原も募集人に対し年齢二十五歳と申述べたが、募集人の都合で年齢の項に二十一歳と記載されたもののようである。然るに昭和二十三年九月六日原告等は夫々職歴年齢等を詐つたとの理由で解雇を申渡されたが、元来募集人は被告会社と同一側に立つものであるから、之等の事実を詐つたものとして原告等を解雇したのは不当であり、右解雇は無効であるのに被告は適法に解雇したと主張するから、右解雇無効の確認を求めると述べ、昭和二十三年(ワ)第一七六六号事件に付被告の請求を棄却するとの判決を求め、答辨として、前記の通り被告が原告等に対して為した解雇は無効であり、原告等は被告会社の従業員であるから、被告主張の寄宿舍を明渡す義務はないと述べた。
(疏明省略)
被告訴訟代理人は昭和二十三年(ワ)第一四六二号事件に付主文第一、第五項同旨の判決を求め、
答弁として、原告等の主張事実中原告川畑が被告会社募集従事者和田常市に応募の申出を為し、原告藤原は同従事者後藤友蔵に応募の申出を為し、これが起点となつて被告会社に雇入れられるに至つたこと、原告川畑の真実の経歴及原告藤原の真実の年齢が原告主張の通りであること並に原告主張の日その主張の理由で被告が原告等を解雇したことは之を認めるが、其の余の事実は之を否認する。被告が原告等を雇入れたのは昭和二十三年七月十一日であり、解雇した理由は、被告会社就業規則第七十五条懲戒解雇基準の第一号「経歴を詐り其の他詐術を用いて雇傭せられたる者」に原告等が該当した為であるから、本件解雇は適法なものである。尚第一七六六号事件の主張を援用すると述べ、昭和二十三年(ワ)第一七六六号事件に付主文第二乃至第五項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として、被告は其の経営する淀川工場に於て倉庫課製粉係に欠員を生じたので、之を補充する為昭和二十三年六月二十三日次の準則に適合する男子工員を採用することとなり其の募集に着手した。即ち(一)採用職種、製粉工及イースト工、(二)性別年齢、男子満十八歳以上満二十一歳未満、(三)赴任期日、七月十日までに淀川工場へ到着のこと、(四)採用条件、(1)身体強健にして伝染性の病気のないこと(2)父母健在か何れか一方健在にして家庭のよい者、(3)旧制中学以上の卒業者か中途退学者は採用しない、(4)身元証明書、自筆履歴書、転出証明書完備のこと(転入証明を要するときは赴任後交付する)の準則に依り募集したところ、原告藤原は秋田県雄勝郡明治村駐在の募集従事者後藤友蔵に応募を申出たので同県湯沢職業安定所を経由し、原告川畑は鹿児島県蛤良郡東国分村駐在の募集従事者和田常市に応募の申出をしたので、同県国分職業安定所を経由して、何れも七月九日淀川工場に到着したので、翌々十一日原告両名を含む応募者合計四十名を一室に集め、採用係渡部忠吉は労働条件及就業規則の概要(特に重要な点については懇切に注意を与う)を説明し充分納得させ、且新に雇われた者は最初の六十日間を試みの使用期間として採用し、若しその間に於て被告の従業員として適当でないことが明かとなつた時は正式採用をしない旨を確知させた上、個々に面接して曩に提出を受けて居た戸籍抄本及経歴書を対照し乍ら本籍年齢前歴家庭状況等を詳細に聴取した。その際原告藤原は生年月日を昭和三年十月十三日と述べ、曩に提出して居た戸籍抄本の記載と同様の申述を為し、原告川畑は前歴としては農業とのみ申述して曩に提出して居た経歴書の記載と同一のことを述べ、更に人事課長内藤誠之助が面接した際にも原告両名は夫々前同様のことを述べ、両名共其の余の採用準則に適合したので、被告会社は原告両名を試みの使用者即ち従業員見習として採用すると共に、原告等の希望に依り主文第二、三項記載の寄宿舍に夫々入舍を許した。然るに其の後調査したところ、原告藤原の真実の生年月日は大正十三年十月十三日であるのに、秋田県雄勝郡田代村々長の認証文言及記名捺印のある戸籍抄本用紙を入手して擅に自分の生年月日を昭和三年十月十三日と記載した戸籍抄本を作成して被告に提出して之を行使し被告会社の係員に対して年齢を詐称し詐術を用いて雇傭されたこと、原告川畑は従前長崎炭坑で坑夫として勤めた外郷里の西松製材所で日傭人夫として働いた前歴があるのに、之を秘して経歴書には単に農業とのみ記載して経歴を詐り採用の衝に当つた被告会社の係員を欺いて雇傭されたことが判明した。原告両名の年齢又は前歴の詐称及之による雇傭は何れも被告会社の就業規則第七十五条第一号の「経歴を詐り其他詐術を用いて雇傭せられた者」として懲戒解雇の基準に該当するものであるから、被告会社は該規定に則り昭和二十三年九月六日原告両名に対し、試みの使用期間中であるから正式採用しない旨即ち解雇の意思表示を口頭で伝達したから、原告両名は被告会社の従業員たる身分を喪失した。原告等は右の如く被告会社の従業員の身分を喪失したのであるから、従業員のみに使用を許す寄宿舍から退舍するのが当然であるのに、退舍しないから、原告等に対し夫々主文第二、三項記載の寄宿舍から、立ち退きを求める。尚被告会社は事業上被告会社の寄宿舍が解雇された者に依つて占拠されることは著しい損害を被るので、原告等に対し立ち退きの仮処分決定を得たが、特に原告等との過度の摩擦を避ける為主文第四項記載のアパートの一室を原告等から被告に対して提起した解雇無効確認訴訟の判決確定迄の間使用させることとした。然し原告等の行動は事毎に異を樹て約に反するので右訴訟の判決が確定しても立ち退かぬ虞があるから、被告は原告両名に対し、将来の給付の訴として右一室の明渡を求めると陳述した。(立証省略)
四、理 由
昭和二十三年七月原告川畑鉄雄が被告会社の募集従事者和田常市の勧誘に起因し、原告藤原榮が同募集従事者後藤友蔵の勧誘に起因し、被告会社に雇入れられるようになつたこと、同年九月六日原告両名が夫々職歴、年齢等を詐つて、被告会社に雇われたことを理由に、被告会社から解雇の申渡を受けたことは当事者間に争がない。証人後藤友蔵の証言に依り、真正に成立したものと認められる乙第一、三号証、証人和田常市の証言に依り真正に成立したものと認められる乙第四号証成立に争のない乙第二号証、同第五及第十号証、証人渡辺忠吉(第一、二囘)、杉本康男、後藤友蔵、和田常市及林喜八郎の各証言を綜合すると、被告会社は昭和二十三年六月二十三日被告主張のような(一)乃至(四)の採用準則に依り被告会社淀川工場倉庫課製粉係男子工員を募集し、被告主張の経路、手続並に選考方法に依り、原告両名の被告会社採用係に対する被告主張のような応答を真実であると信じ、被告会社は原告両名が採用準則に適合するものであるとして、昭和二十三年七月十一日原告両名を被告会社の就業規則第九条に所謂試みの使用期間の従業員として採用すると共に、主文第二項記載の寄宿舍に原告藤原榮を、主文第三項記載の寄宿舍に原告川畑鉄雄を入舍させたこと、其の後被告会社人事課に於て調査したところ、被告主張の通り原告藤原榮は年齢を詐り、原告川畑は採用の際前歴を農業と申し述べたが、実際は昭和二十一年二月十六日から昭和二十三年六月二十六日迄鹿児島県敷根郵便局に集配員として勤務したことがあり、その他にも前歴(長崎炭坑で坑夫として勤めた外、郷里の西松製材所で日傭人夫として働いたことのあることは、原告川畑と被告との間に争がない)があつたことが判明したので、被告会社は就業規則第七十五条第一号の規定に該当するものとし、懲罰委員会を開き協議した結果懲戒解雇にするのを相当とすると全員一致の決議に基き解雇することとし、被告会社人事課長から原告両名は前記の通り試みの使用期間中の従業者所謂見習期間中のものであつたので採用を取消す旨口頭で原告両名に通告した事実を認めることが出来る。原告等は真実の年齢又は前歴を夫々其の募集従事員に告知したのに、募集従事員の都合に依り、原告藤原の年齢を二十一歳と記載し、原告川畑の前歴を農業と記載したもので、募集従事員は被告会社と同一側に立つものであるから、年齢前歴を詐つた事実はないと主張するが、前記認定を覆し、右主張事実を認めるに足る証拠はない。而して被告会社の就業規則第七十五条が、懲戒解雇の場合の基準は次の通りとするとし、其の第一号に「経歴を詐り其他詐術を用いて雇傭された者」と規定して居ることは、前掲乙第五号証に依り認めることができる。原告川畑が前認定のように経歴を詐つたことは同条第一号に該当することは明かであるし、原告藤原が前認定のような方法で年齢を詐つたことは右規定の其他詐術を用い雇傭された者というに該当すると解するのを相当とするから、被告会社が原告等を解雇したことは正当であると謂うべく原告等主張のような不当なものでないことは勿論、右解雇は無効ではない。然らば原告が右解雇を無効なることの確認を求める請求は失当であるから之を棄却する。
次に成立に争のない乙第十二号証に依ると、被告会社の寄宿舍規則第十六条には従業員としての身分を失つた者は速かに退舍しなければならない旨の規定があることを認めることが出来るから、前認定の通り原告両名は昭和二十三年九月六日被告会社から解雇され、被告会社の従業員としての身分を失つたのであるから、同日限り原告藤原は主文第二項記載の寄宿舍から、原告川畑は主文第三項記載の寄宿舍から夫々退去すべき義務があることは明かである。従つて原告両名に対しその退去明渡を求める請求は正当であるから之を認容する。
成立に争のない乙第十一号証、証人渡辺忠吉(第二囘)及林喜八郎の証言を綜合すると、原告等は被告を被申請人として大阪地方裁判所へ右寄宿舍に関し占有妨害禁止の仮処分命令を申請し該申請を許容する旨の仮処分決定を得たこと、被告会社は原告等を被申請人として右寄宿舍明渡請求権保全の仮処分命令を申請し、該決定(明渡断行命令)を得て、その執行を為したが、その際原被告と協議の上、被告は原告等に対し本件解雇無効確認事件の判決確定する迄原告等を一時的に主文第四項記載の寄宿舍に居住せしめることとしたことを認めることが出来る。前認定の通り被告の為した原告等の解雇が正当なものであり、原告等の解雇無効確認の敗訴の判決確定した際は、原告等は右協定に依る寄宿舍使用も亦、原告等は為し得なくなることは、右協定の趣旨に依り明かである。主文第四項記載の寄宿舍の明渡義務はその際現実に発生するのであるが、原被告間の本件訴訟から観察すると、その際原告等が直ちに明渡すか否か疑問とするところであるから、予め其の請求を為す必要があるものと認め、右の明渡を求める請求も亦正当として之を認容することとする。
依つて民事訴訟法第八十九条第百九十六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 岡野幸之助)